南アフリカのヨハネスブルグに暮らす筆者は、2021年のクリスマスイブを黒人居住地区で過ごすことになる。そこの住民たちは、どのようなクリスマスイブを送るのだろうか? 彼らにとっての、なんてことのない、しかしちょっと特別な一日をつづる、静かであたたかい紀行文。
Written by Lerato
私は、2021年のクリスマスイブを、ヨハネスブルグにある南アフリカ最大の黒人居住地区ソウェトで過ごすことになった。ここ南アフリカには、タウンシップと呼ばれる黒人居住地区が多数散在している。これらは、アパルトヘイト時代に人種ごとに居住地が隔離された結果生まれたものであり、その歴史を象徴する場所である。身支度をして、こちらで車を持たない人々が主な移動手段として利用するUber(黒人の人々はミニバスと呼ばれる乗り合いタクシーを利用するため、この限りではない)を呼び、ホストファミリー宅へ向かう。ソウェト内の住所はアプリにほぼ登録されていないため、最終目的地までは自分で運転手に道案内をしなければならない。少し面倒だが、慣れるとどうという事はない。
家に着くと、何やら庭に人が集まっている。こっちに来てみろと言われたので近づくと、バーベキューコンロで動物の足のようなものを焼いている。話を聞くと、クリスマスなど特別な日にはヤギを焼いて食べるらしい。焼く前のヤギの頭を袋から出して見せてくれた。
部屋に入ると、ホストファミリーの姉がツリーを飾ったり、プレゼントを置いたりして、クリスマスの準備をしていた。今からクッキーやスコーンなどお菓子も沢山用意して、翌日みんなで食べるのだという。
一緒にバケツを持って、お菓子を買いに行く。といっても店ではなく、知り合いに頼んで作ってもらうようだ。バケツを渡すと、1時間後にまた来るように言われた。出来上がったクッキーは、こちらでよく売っている砂糖のかたまりのようなお菓子とは違って、程よい甘さであった。
夕方になるとそこら中でどんちゃん騒ぎが始まった。色々な人が車を自宅前に停めてドアを全開にし、カーステで音楽をかけている。南アフリカの黒人の人々は、ハウスミュージックやアフロビートと呼ばれる音楽が好きな人が多い。耳がつぶれそうなほどの爆音だ。しかし通行人は気にする様子もなく、子供たちも道端で普通に遊んでいた。おそらくこれが日常茶飯事なのだろう。仲間と集まって大音量で音楽を流し、酒、時にはドラッグを嗜む。これぞタウンシップの休日である。
かくいう私も友人に連れられて酒屋へ行き、ビールやチューハイを大量に購入した。タウンシップの売店は大抵コンテナをくりぬいて作られたもので、鉄格子のはまったカウンターから注文し、商品を出してもらう(南アフリカでは一般住宅の窓にも、大抵強盗対策で鉄格子がはめられている)。この日も若者たちの行列ができていた。その活気づいた様子はコロナ禍以前と何ら変わりない。変わった所といえば、みんなマスクをしている所ぐらいか。
この国はとにかく若者が多い。そのエネルギー量にはいつも圧倒されるが、同時に未来への希望を持たせてくれる。正直なところ、南アフリカの人々(特に黒人)が直面している現実は厳しい。治安問題、貧困問題、そして新たにオミクロン株が発見されたコロナウイルスなど、数多の危険にさらされながら生きてゆかねばならない。しかしここソウェトに暮らす若者たちは、友人と愚痴を言い合ったりしながらも、毎日を懸命に、そして楽しみながら生きている。明日への希望を持ちながら。そういった所がどうしようもなく私を惹きつける。きっとこれからも私は、この国、この街で生きていく。
そんな思いを胸に抱きつつ、友人の酒盛りに付き合わされるクリスマスイブであった。ソウェトの夜はまだ始まったばかりだ。