サイモン選ズ・2021年ヒップホップ【シングル】ベスト10

2021年のヒップホップ・シーンは、いつにも増して素晴らしい楽曲を多数提供してくれた。本サイトのライターである30代の二人が2021年の数ある作品のなかから、ランキングトップ10を独自に選出! それぞれに短評をつけて紹介する、アルバム部門とは一味違う【シングル】部門篇!

Written by イサク&東亜茶顔

第10位:Migos – “Avalanche”

急に始まる。アルバムの冒頭一発目、イントロすらなしにいきなりしゃべり出すのである。そうして、お馬鹿で楽しいラップのお時間が始まるのだ。もうそれだけで「最高!」ということで、第10位に選出された(MVでは突然始まらなくなってしまっているのが残念)。ホーンがかっこいいこの曲の魅力の半分はこの始まり方にあるが、実はいきなり始まる感は、ミーゴスのスタイルにとって本質的なものであるのではないか。御ミーゴの楽しいかけあいラップは、息のあう仲間同士の三位一体、リズミカルな日常会話的多幸感に由来しているのであって、それは常にすでに始まっているのであり、いまも世界のどこかで続いている営みなのだ。

第9位:Unknown T – “Goodums”

若干22歳にして、この風格。緊張感のあるフロウとライミング、重みのある声がヒリつく。頑なに、いぶし銀に、自身のスタイルを貫いている。ウガンダにルーツを持つ彼が、自身の出身地であるロンドン・ホマートンをRepし、爆発的にヒットした“Homerton B”も、思えば鍵盤とドリルビートの組み合わせだった。あのヒット曲の不穏さはそのままに、どこか儚くもの悲しい響きとともに、UKドリルの可能性を拡張する一曲と言えるだろう。ベルリン発の音楽プラットフォームCOLORSが主宰し、世界中のあらゆるジャンルの新進気鋭のアーティストが集う「A COLORS SHOW」でも、ローズピアノと共にパフォームしている。

第8位:Nas – “EPMD 2 feat. Eminem & EPMD”

Where Are They Now!?の掛け声のもと(?)、エリック・サーモン(Erick Sermon)とパリッシュ・スミス(Parrish Smith)の両名が帰ってきた! ヒットボーイ(Hit-Boy)の手がけたビートは、オーソドックスでありながら手の込んだ仕事で、聴く者を飽きさせない。ナズの血のたぎるようなヴァースも素晴らしいが、輪をかけて気合いが入っているのは、尊敬する諸先輩方に一歩も負けるわけにはいかないといった具合のエミネムである。実はともにキャリアの長いナズとエミネムであるが、共演は初めてだったりする。ヒップホップの歴史に燦然と輝く二人の伝説の張り合いを心ゆくまで楽しむべし!

第7位:JJJ – “Cyberpunk feat. Benjazzy”

日本(オリエンタルにまなざされた日本、あるいはアジア)の都市は、ディストピアを描く絶好の舞台となってきた。『ブレードランナー』『ニューロマンサー』『マトリックス』シリーズなどの映画や、『サイバーパンク2077』のようなゲームのように、ヒップホップにとっても、サイバーパンクは格好の場となった。川崎をベースに新宿や渋谷など、都市のイメージがサンプリングされながら、この曲のリリックやサウンドが疾走する。リアリティをめぐる問題系の中にあるヒップホップが、フィクションと対峙する場所は、暗く鬱屈としたサイバーパンクの中にあるのかもしれない。

第6位:Genesis Owusu – “Don’t Need You”

オーストラリアから突如現れたこの歯抜け野郎は、頭に包帯をぐるぐる巻いていても決して笑顔を絶やさない。特に、最高にチャーミングでクールなこの曲では、「えっ、これマジで? お前いらんわ!」「お前大嫌い!」とくねくねと踊りながら吐き捨てる。最高である。実はアルバム部門でも最後まで候補に残っていた、本曲収録の1stアルバム『Smiling with No Teeth』のなかでは、タイトルソングも中毒性抜群の一曲であった。あらゆるジャンルを笑顔で渡り歩きながら、これからも僕らのハートを鷲掴みにしてほしい。

第5位:Thouxanbanfauni – “T.TITAN”

アトランタ育ちにもかかわらず、生誕の地のNFLチームになぞらえて、「テネシーの巨人」と嘯いてみせる彼のリリックが、ことさらに新しい試みを含んでいるわけではない(『鬼滅の刃』の猗窩座がflexのために言及されているのは今風か)。この順位につけたのは、彼のライミングがトラップへの新たなアプローチの可能性を多分に含んでいること、そしてメンフィスのプロデューサー、ジョーツ(Jootsu)が作ったタイプビート(YouTubeにある)が、しっかりと新たなトラップとして昇華されているところを評価したからだ。

第4位:Kanye West – “Jail”

彼が痛々しいお騒がせセレブのようになってから、何年が経っただろう。もがいて、もがいて、その度に傷が増えていく。いつしかカニエについての報道を見るのも嫌になっていたが、新曲は必ず聴いていた。そんなカニエが、死んだ母の名を冠したアルバムを出す。いざ聴いてみると、まだ「みんな嘘つきだ」とか「今夜は誰が落ちこぼれるんだろうな」などとぼやいている。それでいいのかよと思ったそのとき、すっかり距離が生まれていた師のジェイZが登場。母ドンダに向けて、「彼に言ったのさ、“嘘をつくことなんてやめて〔Stop all of that red cap;赤い帽子を脱いで=トランプ共和党を支持することなんかやめて、とのダブルミーニング〕、一緒にホームに戻ろうぜ”って」とラップする。そこで泣かないカニエファンはいないはずだ(Part 2には触れないでおこう)。カニエにより多くの幸あれ!

第3位:Tohji, Loota & Brodinski – “Yodaka”

音として声を捉えたとき、トージのアイディアは冴え渡っている。カニエ・ウエスト『Yeezus』への参加でも知られるブロディンスキのハードなビートの上で、激しくなる呼吸音から不穏に始まるこの曲は、明らかに宮沢賢治の小説「よだかの星」を元にしている。夜の商売を象徴する鳥でもある夜鷹は、自らの醜さが原因で故郷を追われ、生きるために他の命を食らうことを厭うて星になることを願った。届かぬ願いの先にいまも天空に燃え盛り続けているというヨダカ。彼らはそんなヨダカに自らを重ねたのだろうか。

第2位:Baby Keem & Kendrick Lammer – “family ties”

ケンドリック・ラマーの設立したメディア・カンパニーであるpgLangのプロモーション以来、そこで予告されていたヴァースから始まるこの曲で、21歳のベイビー・キームは一躍スターダムにのし上がった。実の従兄弟であるケンドリック・ラマーの多大なる影響を無視することはできないが、むしろキーム自身のテクニックに惹きつけられたリスナーも多いはずだ。以前は彼らの所属していたレーベルTDEでプロデューサー、カメラマンとして活動していたらしいが、トラヴィス・スコット(Travis Scott)との共演を出すなどしてからは、着実にキャリアを積んできた。出世作となる本曲では、曲中で複数回ビートが切り替わる。MVでは映像までもがコラージュし、叫ぶような彼のライミングと相まって驚くべき迫力を見せる。それは、ケンドリックとの絆を誇示するようでもあり、同時にケンドリックの影響圏から独立せんとする気迫の表現のようでもある。新しいウェッサイ・ヒップホップの脈動を楽しめ!

第1位:Lil Nas X & Jack Harlow – “INDUSTRY BABY”

2019年に“Old Town Road”を聴いたとき、どうも一発屋臭えな、なんて思ってごめんなさい。本曲を筆頭とするリル・ナズ・X初のスタジオアルバム『MONTERO』は、眩いばかりに輝いていた。特に本曲。ゲイであることをカミングアウトした彼が立ち向かうのは、これまでマッチョなノリを好み、ゲイを馬鹿にし続けてきたヒップホップ・シーンそのものである。それだけではない。同性愛者の立場を守ろうとする曲はこれまでにもあった。だが、「これがチャンピオンの特権/俺がゲイだからってお前らは間違ったんだ/『終わりだ』なんてよく言えたもんだ」と歌い上げる彼の姿勢は、まさにそれ自体ヒップホップそのものではないか! ヒップホップを武器に悪しきヒップホップ・シーンの因習に挑んだのだ。そこに溢れる解放への熱望は、これまでヒップホップの名曲がそうであったように、さまざまな立場に生きる人びとを奮い立たせる。

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