テニスと政治:今年のウィンブルドン反省会【後篇】

今年のウィンブルドンが閉幕してから一か月。コロナ禍とウクライナ戦争がともに終わりを見せない世界で、ウィンブルドンはどのように開かれたのだろうか? テニス好きの二人が語る今年のウィンブルドン男子シングルスの反省会。後編。

Written by イサク&ハマー

【本記事の画像は全てATP公式サイト(https://www.atptour.com/)から引用】。

ロシア不在と新たな選手たち

イサク:引き続き、四回戦ぐらいに注目しながら話していくと、そこでベスト16がそろったわけじゃないですか。で、その時に「あぁもう出そろったか」と思いながらドローを見ると、何て言うのかな、やっぱりもうちょっとロシア勢がいるのが普通だよなって。要するに、「こんな選手たちが上がってくるんだ」って思うような人たちが代わりに何人かいてさ。普通は珍しい選手が勝ち上がってきたときって、選手に興味が湧いて嬉しいもんだけど、今回は「まぁメドベもルブレフもおらんもんな」と思って変に納得してしまうので、そういう面でも楽しめなかったところがあるなぁ。

【画像:2022年ウィンブルドン男子シングルス・ベスト16。】

ハマー:いろいろおったな。たとえば、ジョコビッチの相手のオランダのティム・ファン・ライトホフェンとかワイルドカードやね。ゴファンやティアフォーもさ、ベスト16に入れるのかっていうのはちょっと思ったし。さらにトミー・ポールとかね。アメリカの選手で最近伸ばしてるけど、グランドスラムの上位で見る名前じゃなかった。あとクリスチャン・ガリンもこういう段階では見ない選手。さらにニック・キリオス。キリオスも勝ち上がるのは意外だった。そのキリオスと対戦したブランドン・ナカシマ、アメリカのね。彼なんかもベスト16に入ってるわけですよ。フリッツと当たったジェイソン・クプラ―。去年から少し目立ちだしたファン・デ・ザンツフープはナダルと当たったのか。確かにベスト16ともなると、これまではもう少し知名度の高い選手が何人も入ってる感じがあったけれど、今回はそんなにいなかったな。

イサク:こう並べてみると、やっぱりワクワク感もあるな。新鮮な香りがあるね。でも一方、このときの注目カードはというと、シナーとアルカラスくらいかな。あとティアフォーは僕が大好きですからね、ゴファンとの試合も注目してたけど。多くの選手にとって、ロシア勢がいない大会ってのはチャンスでもあったわけね。おまけにベレッティーニやマリン・チリッチまでコロナで欠場。これはチャンスなわけですよ。何人かのベスト16常連プラス、そのチャンスを掴んだ選手たちというメンツだね。ブランドン・ナカシマは結構目立ったよね。特にハマーに聞きたいのは、彼がここまでくる途上の二回戦で破ったのはシャポバロフですよ、君が大好きな。

【画像:ブランドン・ナカシマ。2001年生。】

ハマー:なるほど、うん、シャポちゃん、負けたんだよね。シャポは有力な選手やけど、最近ちょっと沈んでる感あるな。今年の全豪オープン準々決勝で体調不良のナダルを仕留め切れなかったところから、ちょっと人生の歯車が狂い始めたんじゃないかと俺は思ってんだけど。

イサク:うん、そうか。シャポもだって去年はベスト4だもんね。

【画像:デニス・シャポバロフ。1999年生。】

ハマー:そうそう。それで今回は二回戦負けっていうね。ちょっと残念な感じがあるよね。今回ベスト16が知名度の低い選手が多かったわけじゃない。つまり、ロシア勢だけでなくて、チチパスもズベレフも、あとは、シュワルツマンとかもいないわけだし。シャポと同じカナダのオジェ・アリアシムもいないわけでしょ? オジェはイサクさんがまた好きな選手やね(笑)

イサク:だからそういうのが本来並ぶじゃんっていう。あれだけ期待してたオジェとシャポというカナダ勢もまるで駄目だったな。もうちょっとそこらへんに頑張って欲しかった。そんでその不在者たちの名前のなかで特に気になるのは、世界3位だったチチパスだな。

キリオス大暴れ

ハマー:うん、チチパスはプレイスタイル的には芝が合うんじゃないかと思うんやけど、なんか若干気負いが過ぎて苦しくなってきてるのかなって気がする。今回のウィンブルドンでは、チチパスは三回戦でキリオスに負けたな。そう、あの場外乱闘というか、罵りあいみたいな試合ですよ。お互いに悪口を吐きかけながらの試合な(笑) チチパスが、あれは試合後かな、「キリオスはいじめっ子で、その邪悪な面がこの試合に出ていた」みたいなコメントしてて面白かった。

イサク:チチパスがなんかで怒って打った球が観客に当たったりとかしてさぁ。それでキリオスが、以前のジョコの事例を引きながら「チチパスを退場させるべきだ」みたいなことを言ってね。そういういろいろがありましたね。チチパスは負けず嫌いというか、負けては意味がないみたいな気負いが強い。あれは両親、特にコーチをやってる父親の教育でしょ。負けてはいけない、なんとしても勝たなければならない、そのためにはトイレ休憩でルール違反のコーチングまで受けちまえ、みたいなところがある。その点はジョコも似たところあるな。それに対して、キリオスは負けず嫌いというよりも、まぁ口のたつヤンキーみたいなもんだわな(笑) いつも審判に暴言吐いたり、歯に衣着せぬ物言いで話題になってるけれど、ファンを楽しませようとするところは人一倍で、トリッキーなプレイも積極的にやっていく。元の運動神経が抜群だから、トリッキーなことも結構成功させる(笑) フェデラーにえらい怒られてたこともあったけど、僕はキリオスも好きだなぁ。

【画像:ニック・キリオス。1995年生。今大会で一番目立っていたのは、まず間違いなく彼であった。】

ハマー:ちなみに、ズベレフはそもそも今大会には出てないね。全仏で靱帯断裂の大怪我したから。オジェ・アリアシムも一回戦敗退。去年は8強だったのにな。前哨戦のドイツ・ハレ大会で優勝したフルカチュも一回戦敗退か。そういうのも重なってベスト16のメンツがこう意外な感じになったわけやな。ロシアの不在だけじゃなかったというわけや。

今年の決勝戦

イサク:残念っていう点でいうと、ナダルもそうかな。彼は立派に勝ち上がってきたけど、準決勝前に怪我で棄権してさ。ナダルは去年、本当に満身創痍、引退まで考えるほど怪我に苦しんでいた。もう自分の時代は終わったんじゃないかって。でもそこから復帰してな、全豪と全仏、今年のグランドスラムを二つも取った。全仏の決勝では、あの素晴らしい若手キャスパー・ルードをボコボコにして、歴代で圧倒的最多の14度目の全仏優勝を果たしたわけだ。こうしてみても、今年はナダルの年って感じがあった。ところがウィンブルドン準決勝で棄権という非常に残念な結果でしたね。

ハマー:さて、それで決勝やね。決勝はまさかのカードやったな。ナダルの棄権によって不戦勝で決勝にあがった男が・・・あのキリオスや! 相手は最強の男ジョコビッチ。このカードは誰も想像せんかったやろうな(笑) キリオスの勝ち上がりはたしかに運もある。でも運だけじゃなかった。ほんまにコイツ、プレイの調子良いわ、最近。

イサク:最初に少し触れたけれど、ウクライナ戦争のほかに、もう一つ、コロナの問題があってね。それで言うと、あのずっとほら、キリオスとジョコビッチって仲が悪いのは知られていたよね。それに関する話でいうと、今年の全豪の前に、ワクチン拒否をしているジョコが出場できるかできないかで揉めた事件があったじゃない。裁判までして。で、ナダルとかは「もういいからいいから」みたいな感じでジョコの批判をしてね、おまけにジョコとナダルはグランドスラム最多優勝記録もかかっていて、ジョコは結局出れなかった。今年のグランドスラムは、そういう険悪な状況から始まった。ところがこのときね、ジョコを擁護したやつがいたんだよ。それが意外なことにキリオスだった。キリオスはエンターテイナーだから、彼に言わせれば「ファンはノバクを観たいに決まっているんだから、出せばいいじゃないか」となるんだよね。「おぉ、あのキリオスがジョコの出場を後押ししてる!」と驚いたもんだけど、まさかそれがウィンブルドン決勝につながるとは(笑)

ハマー:本当にキリオス大暴れの大会やったな。まあ、ジョコビッチの決勝進出は例年のごとくやけど。結構粘り強くやってたね、キリオス。決勝も、普段みたいにふて腐れて半ば投げやりになるんじゃないかって危惧もしてたんやけど、そんなこともなく粘ってたからね、あのジョコ相手に。なんか大会前に言ってたらしいね、「気持ちを入れ替えた」とかなんとか。それに「やっぱり自分が今さらここに立てるなんて思ってなかった」みたいなことも言ってたけど、本当にその通りなんやろうな。ちょっとだから、いつもの試合と雰囲気が違うというか、割と真面目にやってた。結果としてはジョコに負けてしまったけれども。

イサク:試合前に、勝った方がレストランで奢るという約束をジョコとしていたみたいよ。そんな仲良しじゃなかっただろうに(笑) コロナ禍と政治的混乱が、結果として予期せぬ間柄を生み出したのかもしれんね。

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