東京の 湯けむりめぐるは 日常の あれやこれやに 疲れ果て 心も曇った サラリーマン。洗って流すは アカでなく むしろ心の 淡い青。さらけでるのは 裸の心 あいみょんならぬ おじさんの。
Written by 川上修生
週に3日ほどは銭湯に行くんです。
いいですよ~、お風呂。
もともと、月に1回ぐらいは行っていたんですが、30代のあれやこれやがカラダとココロにジャブを打ち始めたここ数年、すっかり暖簾をくぐる頻度が増えました。
「風呂は命の洗濯です」
誰が言ったか知りませんが、よく言ったもんです。
(ココだけの話、このウェブサイトの主宰者のひとりは、なかなかお風呂に入らないんですが、正直信じられませんね!)
あんないい場所はないですよ、ホント。
すべてが良い方向に向きます。
あゝ、感謝感激雨あられ。
そんな私の銭湯ライフ。
目黒区・品川区の行きつけ4湯をローテーションしながらも、遠征も盛んに行います。
都内のどこかに飲みに行く用事があれば、その街に良い銭湯はないかと事前リサーチ。
飲む前にちゃぷんと入湯すると、よく知らないその街の空気感まで骨身に沁み込んできます。
例えば、台東区。
下町は朝も早ければ夜も早い。
浅草橋から東上野のあたりは銭湯が集中していることもあって、日が暮れる前の時間帯は、自前の風呂桶に石鹼やタオルを詰め込んだ姿のおじさまおばさまを多数拝見します。
この「風呂セット」、人によってヒジョーにこだわりのでるポイントであります。
髭剃りや歯ブラシはもちろん、体の部位によってボディソープを使い分けるこだわり人もちらほら。
町工場なんかが昔から多いから、道具にこだわりを持っている人も多いのかもしれませんね。
あと、私なんかはずぼらで、ささっと洗ってしまうタチなんですが、中には足の先まで丁寧にじっくりと洗ってらっしゃる方もいるんです。
そんな姿を見ていたら、頂いたお命、つま先まで愛をもって労わってやらないかんなと、がらにもなく思っちゃうわけです。
それはそうと、なんといっても最近は空前のサウナブーム。
ご覧になられたことあります?
「サウナイキタイ」とプリントされたTシャツを着た若者。
流行ってるんですよ、あれ!
てなことで、サウナあり銭湯なんかは、「サ活」をしに来た若者で溢れかえっています。
リニューアルしたオシャレなとこも増えましたしね。
ある日もそんな彼らを見て、あんちゃんたちも好きだね~なんて思っていたわけです。
でも、なんでしょう、眼にぼんやりと映る彼らの裸体に感じる違和感。
ええ、まぁ聞いてはいましたよ。
Twitterとかなんとかでも、下の毛に潔く別れを告げてしまう子が多いこと。
でも、ホント結構多いのよ、これが。
私みたいな旧態依然たる人間は、繁茂しがちな自分のそれに目をやりながら、ドキッとしてしまいますね。
ということで、ひと昔前よりも確実に年齢層のバランスが改善したであろう銭湯ですが、やはりなんといっても主役はおじさまおばさま方でございます。
「オヤジ点描」なんかと名付けられた記事を書いてしまう私ですから、銭湯はまだ見ぬ先輩方に出会える貴重な場所であります。
風呂桶にカランから水を注ぎ、優勝力士が大きな盃でグビグビと祝い酒を飲むかのように、心底美味そうに水を飲むおじさま。
それ以上回したらいい加減肩外れちゃうよ!と心配になるぐらい、風力発電機のごとく腕を回し続けるおじさま。
店員でもないのに、自分の入浴そっちのけで一心不乱に浴場内隅々の美化に励むおじさま。
脱衣所で一糸まとわぬ姿で『チャンピオン』を読みふけるおじさま…。
みなさんレジェンド級で、なにより憎めず、その自由さに身体だけじゃなくて心まで洗われるようです。
こうゆう光景は、責任を持って後世に引き継ぎたいものです。はい。
というかですね、大手を振って、多くの人様の前ですっぽんぽんになれる場所は、公衆浴場をおいて、ほかにはございません。
服っていうのは楽しくもありますが、厄介なもんでもあって、その人がどういう趣味で、どういう暮らしをしているのか、イヤでも見えてしまうものであります。
そんな視線を投げかけることからも、受けることからも、一旦自由になれる。
なんだか悪くない響きじゃございません?
そりゃまぁ、世の中全体が風通しの良い雰囲気なら言うことないんでしょうけど、なんだか窮屈なこのご時世、なかなか厳しいですからね。
とりあえずいっ時だけでも、堅苦しい振る舞いからもブランドからも自由になれるなんて貴重ですよ!
「おかぁさ~ん、そろそろ出るね~」
さぁさぁ今夜もどこかの浴場で坊やの声がやさしく響き渡ります。
後継者不足や燃料高騰で先行きが厳しいとされる銭湯業界。
末長く大事にしていきたいもんです。
あなたも一緒に湯けむりの向こう側へいかが?